軟部外科シリーズ:腸管腫瘍切除

こんにちは、獣医師の上野です。

今回は小腸にできた腫瘍(平滑筋腫)の手術をご紹介します。

患者様情報

動物種:犬

年齢:16歳

体重:2.4kg

主訴:嘔吐、下痢、体重減少

血液検査

アルブミン(栄養の消化・吸収)値の低値(2.0g/dL)とリパーゼ(膵臓)値の高値(1000U/L以上)、CRP(急性炎症マーカー)の高値(8.4mg/dL)を認めました。

レントゲン検査

胃と小腸内にガス貯留を認め、腹腔内に腫瘤状構造を認めました。

腹部中心付近に円形の構造が確認できます。

超音波検査

胃の運動性の低下、胃壁の肥厚、腹部正中に小腸と連続性のある腫瘤状構造を認めました。

レントゲン検査と同様の位置に実質性の腫瘤状構造が認められました。

鑑別診断

慢性嘔吐の子のため、基礎疾患として『炎症性腸疾患(IBD)』を挙げました。

腹腔内腫瘤に対して、『リンパ腫』、『腸腺癌』、『平滑筋肉腫』、『消化管間質腫瘍(GIST)』、『平滑筋腫』を挙げました。

次にそれぞれの鑑別のために、内視鏡検査と腹腔内腫瘤の針生検を実施しました。

内視鏡検査

病理組織検査結果:胃・小腸(十二指腸)において慢性炎症(リンパ球、形質細胞の浸潤)の所見を認めました。

いわゆる炎症性腸疾患(IBD)の検査結果になります。

腫瘤針生検

細胞診検査結果:『GIST』および『平滑筋腫』の疑い。

治療方針として、

IBDに対して内科治療を行い、腫瘍に対しては手術のご提案をさせていただきました。

GIST、平滑筋腫の特徴

GISTは悪性腫瘍に分類され、平滑筋腫は良性腫瘍に分類されます。

症状に特別な違いはなく、通過障害による食欲不振や嘔吐、腹部膨満などです。

発生する部位は両方とも胃腸粘膜の下の筋層(平滑筋)で、限局的に発生することがほとんどです(GISTは稀に転移)。肉眼では区別ができません。

治療の第一選択は切除です。完全切除により完治が望めます。

ただし、GISTは悪性腫瘍ですので切除し切れていない場合、化学療法も必要になります。

手術

転移の有無、他での発生がないかの確認のためCT検査を通常は行います。

今回は飼い主様との相談の上、CT検査は行わず、手術を行う了承をいただきました。

小腸(空腸回腸領域)において境界明瞭な腫瘍が確認できました。

癒着もなく、漿膜面は平滑で発赤や血管の怒張等もなく、外観は腫瘤ができていること以外は正常な小腸と変わりありませんでした。

取り残しがないように腫瘍の前後3cmの部位で小腸を切断、腫瘍を切除しました。

腫瘍を切除し、縫合した後です。

縫合面から漏出がないことを確認し閉腹しました。

病理組織検査結果:平滑筋腫(完全切除)

手術後の注意事項

手術により消化管運動は低下し、術部の離開のリスクもあり、手術後24時間は絶食が必要になります。

腸の負担を少なくするため、食事のスタートは消化に良い流動食から始めます。

食事量は通常の量の30%ほどに制限し、7〜10日ほどかけて徐々に普段の食事量に近づけていき、

フードの固さも戻していきます。

通常は2~3日の入院管理を行います。食欲があり、嘔吐や下痢の症状がなければ退院としています。

術後の経過

今回の患者様は手術後の3日目には退院しました。

退院後の食事管理も順調に行えて食事は術後10日目には通常通りに戻っています。

現在もIBDの治療を続けていますが、経過は非常に良好です。

今回は、消化管に形成された腫瘍病変について、お話をさせていただきました。

皆様の治療の選択肢のご参考にしていただければ幸いです。