こんにちは、獣医師の上野です。
今回は断指の手術を行いましたので、そちらのご紹介をしたいと思います。
動物種:犬
年齢:12歳
体重:22kg
主訴:左前肢の第1指(狼爪)の腫脹
細菌感染を疑う所見(球菌の出現)が認められましたが、細胞成分は確認できませんでした。
抗生剤と抗炎症薬で治療を開始しました。
2週間の投薬を続けて治療を行いましたが、治療の反応に乏しく、
化膿臭と爪組織の損傷(自壊)が認められたため、腫瘍を疑いました。
指の先端(爪床)に発生し、自壊を伴うものとして
悪性腫瘍である『扁平上皮癌』、『悪性黒色腫』を鑑別に挙げました。
治療と原因疾患の特定のため、
飼い主様に左前肢狼爪切除及び病理検査をご提案させていただきました。
本来は術前に患部のレントゲン検査を行いますが、
狼爪に病変が限局していたこと、自壊が激しいことより断指術が最善と判断し、
飼い主様と相談の上、省略させていただきました。
扁平上皮癌:皮膚や口腔で発生し、爪床での発生が最も多く認められます。局所浸潤性が強く、爪床に発生したものは骨破壊を伴うことが多いです。転移することは稀であり、完全切除することにより完治が望めます。
悪性黒色腫:口腔内での発生が最も多く、皮膚、爪床での発生も認められます。患部に色素沈着を伴うことがあり、黒く変色していることがあります。口腔内と爪床で発生した場合に悪性度が高く、転移する可能性もあります。転移が認められない場合に完全切除で完治が望めます。
手術前の写真です。狼爪の著しい腫脹と自壊が認められます。
手術後の写真です。十分なマージンを確保し切除、縫合しました。
橈側皮静脈という太い血管が第1指の近くを走行していますので、
マージンを大きく確保して皮膚を切開するときに損傷させないよう注意します。
また、今回は爪組織の自壊も認められましたので、骨組織への浸潤の可能性が高いこともあったので、
末節骨(爪の根)での切除ではなく、指の付け根の骨である基節骨まで切除範囲を拡大しました。
手先の皮膚は伸びにくく、切除範囲によっては皮弁形成術が必要になりますが、
今回は必要ありませんでした。
病理結果:扁平上皮癌、完全切除
狼爪自体前肢の先端部位ですので、術部が濡れたり汚れたりしないよう注意が必要です。
逆にそこさえ気をつけてもらえば通常通りのお散歩も可能です。
また、完全切除はされていますが、局所浸潤が強い腫瘍のため、
念のために再発がないかの経過観察も必要です。
予定通り術後2週間で抜糸を行うができ、再発もなく良好です。
指や爪のトラブルでご来院される方は少なくない印象です。
ご質問等ありましたら気軽にお声がけください。