軟部外科シリーズ:ウサギの去勢手術

こんにちは、獣医師の上野です。

今回はウサギの去勢手術について、ご紹介いたします。

患者様情報

年齢:6ヶ月齢

体重:950g

主訴:体調に問題はなく、予防的な去勢手術を希望

ウサギの去勢手術

ウサギでの去勢手術を行う目的の一つは問題行動の抑制・予防です。

スプレー、攻撃、乗駕行為(マウンテイング)などの問題行動によく遭遇します。

若いうち(1歳以内)に去勢手術を行うと抑制効果は高い傾向にあります。

生後6ヶ月齢ほどで身体が出来上がってきますので、生後6ヶ月齢以降で去勢手術を行うことが多いです。

二つ目は病気の予防・治療目的で行います。

精巣腫瘍、精巣炎などが挙げられますが、比較的高齢になってから罹患しやすい疾患が多いです。

手術

手術前の写真です。

陰嚢の直上を切開する方法もありますが、当院では陰嚢より頭側の腹部皮膚を切開し、

そこから精巣を押し出すようにして露出させています。

上手く押し出せると総鞘膜という膜に覆われた精巣が出てきます。

この総鞘膜を切開し、精巣を露出します。

精巣切除時の注意点:精巣を確実に把持する

押し出す際に精巣が腹腔内に戻ってしまうことがあります。

ウサギは内股にある鼠径輪と呼ばれる腹腔内と陰嚢をつなぐ穴が生涯閉じない動物であるため、

ウサギの精巣は腹腔内と陰嚢内を容易に出入りできます。

総鞘膜に覆われているうちは腹腔内に戻ってしまっても簡単に陰嚢内に戻せます。

しかし、精巣を切除するために総鞘膜を切開・分離した後に精巣が腹腔内に戻ってしまうと、

腹腔外へ再度露出させるのが大変難しく、最悪の場合に開腹が必要になる場合があります。

そのため、精巣の露出・切除の際は腹腔内に戻らないよう精巣をしっかり把持して血管と精管を結紮し、

切除します。

こちらは実際に切除した後の精巣です。総鞘膜のイメージとして青線を描きました。

切開した総鞘膜は閉じる

精巣を切除した後、総鞘膜をそのままにすると、

鼠径ヘルニア(腸や膀胱が腹腔外に脱出してしまう状態)を起こしてしまうので、

切開した総鞘膜はしっかり縫合して閉じます。

術後の写真です。

ストレスを避けるためエリザベスカラーの着用はなるべく控えています。

ある程度傷口を齧っても耐えられるようにステープラーと呼ばれる外科用のホチキスで

皮膚縫合をおこなっています。

術後の注意点

ウサギは手術後に食欲不振が非常に起こりやすい動物です。

年齢に関係なく起こる現象で、程度は様々ですが経験上9割方の子たちが食欲不振を起こします。

半分程度の量を食べれていれば軽症で回復も早いですが、

全く食べれていないと体調がどんどん悪くなっていくのがウサギの特徴ですので注意が必要です。

食欲不振の際には点滴を行い、回復の補助をしていきます。

多くの子たちが2~4日間の点滴で回復してきます。

術後の経過

順調であれば術後10~14日で抜糸を行います。

今回の患者様は術後経過は非常に良好で、食欲不振も認められずに抜糸を迎えられました。

犬・猫と同様にウサギも予防的な手術(避妊・去勢)をおこなっていますので、お気軽にご相談ください。