消化器疾患シリーズ3:犬の慢性下痢

犬、猫の消化器症状(吐き気、下痢、食欲不振)については、その発症年齢で大きく原因が異なってきます。

今回は、『若い年齢における犬の慢性下痢』について、消化器疾患シリーズ1:犬の慢性嘔吐と同じように

実際の症例を通して3つのポイントにしぼって解説いたします。

まず、3つのポイントについて、ご紹介します。(3歳までの若い子を対象とした指標になります。)

1、下痢の頻度:1週間に3日以上下痢をしていること ⇄ 病気の可能性があります。

2、体重の変化:体重が増えない、減ってしまうこと ⇄ 病気の可能性があります。

3、飲水量の変化:たくさん水を飲むこと ⇄ 病気の可能性があります。 

それでは、実際の症例をご紹介していきます。

患者様情報:ポメラニアン、9ヶ月齢、男の子

主訴(悩んでいること):幼少期より、排便回数が多く、軟便のこと

1、下痢の頻度:なし(軟便は水分の多い便になりますが、今回は下痢便にカウントせず、進めていきます。)

2、体重の変化:問題なく増加している

3、飲水量の変化:たくさん水を飲む(3kgの子で、1日250cc前後の飲水量です。)

*許容飲水量:1kgあたり50cc〜70ccまでになります。

上記にご紹介している3つのポイントのうち1つだけ該当していますので、大きな病気の可能性は低くなります。

ここで考えられる病気および体質の可能性について、3つご紹介します。

1、感染性腸炎:寄生虫、細菌、ウイルスなどの感染症によるもの

2、食物アレルギー性腸炎:食材に対するアレルギー反応によって、発症するもの(体質です)

3、内臓疾患:腎臓、肝臓などの発育が遅い場合に生じるもの(若い子は注意が必要です)

なお、今回ご紹介した子は、3つのポイントのうち、1つしか該当していません。

そのため、大きな病気の可能性が低いことが予想されますので、『1、感染性腸炎』の可能性を疑いました。

実施した検査:IDEXX 下痢パネル検査(下痢に起因する感染症を確認するPCR検査です。)

検査結果:ジアルジア 陽性、カンピロバクター・ジェジュニ 陽性

今回の検査結果において、

ポイントとなる感染症は、『ジアルジア』になります。

ジアルジア感染症に伴い、悪玉菌であるカンピロバクター・ジェジュニが増殖していることが予想されます。

ジアルジア感染症について

幼少期の犬の感染症において、比較的多い感染症と考えております。

ジアルジアは、単細胞生物で運動機能や生殖機能などを有する原虫の一種で、動物や人に感染します。

感染した動物の糞便中にシストと呼ばれる感染可能な形で排泄され、

それを他の動物がグルーミングなどで口にすることで感染します。

人にも感染することがある人獣共通感染症になりますが、

基本的な手洗いなど衛生管理に気をつけていただくことで感染予防が行えます。

犬のジアルジア感染症の症状は、多岐に渡ります。

下痢、嘔吐、体重減少、多飲多尿、体の痒みなど症状を認める子から稀に無症状の子もいます。

病院内で実施可能な糞便検査だけでは、判断がしにくいこともありますので、

必要に応じて上記の下痢パネル検査を活用しています。

ジアルジア感染症の治療

基本的には、お薬での治療を推奨しています。

お薬としては、抗生物質である『フラジール』または『ビブラマイシン』を第一選択として、

治療抵抗性の場合、抗生物質である『アモキクリア』や、寄生虫駆除薬である『ドロンタール』などを

組み合わせて行っております。

当院での平均治療期間は、2〜3ヶ月間になりますが、治療抵抗性の場合で2年近く必要だった子もいます。

若い子の下痢については、上記にご紹介した食べ物アレルギーも注意が必要ですので、

経過が長い下痢の場合には、お気軽にご相談ください。

アリイ動物病院 院長