消化器疾患シリーズ4:猫の慢性下痢

犬、猫の消化器症状(吐き気、下痢、食欲不振)については、その発症年齢で大きく原因が異なってきます。

今回は、『若い年齢における猫の慢性下痢』について、消化器疾患シリーズ2:猫の嘔吐と同じように

実際の症例を通して3つのポイントにしぼって解説いたします。

まず、3つのポイントについて、ご紹介します。(3歳までの若い子を対象とした指標になります。)

1、下痢の頻度:1週間に3日以上下痢していること ⇄ 病気の可能性がございます。

2、血便の有無:便に血液が混じる ⇄ 病気の可能性がございます。

3、嘔吐の有無:下痢に伴い吐き気がある ⇄ 病気の可能性がございます。

それでは、実際の症例をご紹介していきます。

患者様情報:雑種猫、1歳齢、男の子

主訴(悩んでいること):最近、下痢便、血便になることが増えた。

1、下痢の頻度:1週間に3〜4日

2、血便の有無:有り(便の最期に付くことが多い)

3、嘔吐の有無:無し

上記にご紹介している3つのポイントのうち2つが該当していますので、病気の可能性が含まれてきます。

ここで考えられる病気および体質の可能性について、3つご紹介します。

1、感染性腸炎:寄生虫、細菌、ウイルスなどの感染症によるもの

2、食物アレルギー性腸炎:食材に対するアレルギー反応によって、発症するもの(体質です)

3、慢性腸炎:いわゆるIBDと言われている自己免疫性疾患の胃腸炎です。

なお、今回ご紹介した子は、3つのポイントのうち、2つが該当しています。

病気の可能性がございますので、検査を行いつつ、同時に治療も実施しました。

実施した検査:IDEXX 下痢パネル検査(下痢に起因する感染症を確認するPCR検査です。)

検査結果:トリコモナス 陽性

治療薬:フラジール錠、1日2回服用

治療後より、下痢の症状は改善を認めましたが、血便の改善は認めませんでした。

実施した検査:動物アレルギー検査 IgE検査(血液検査にてアレルギー物質を確認します。)

検査結果:ハウスダスト 軽度陽性、食べ物アレルギー 陰性(なし)

食べ物アレルギーの可能性を除外するため、検査を実施しましたが、大きなアレルギー物質は認めませんでした。

上記に挙げた『1、感染症』や『2、アレルギー』の可能性が否定されたため、

『3、慢性腸炎(IBD)』の可能性が考えられました。

『3、慢性腸炎(IBD)』の確定診断には、全身麻酔での内視鏡検査が必要になってきます。

麻酔処置になりますので、もう一度、病歴から他の原因がないかを再検討することも必要になります。

4、大腸炎:トリコモナス感染症による影響で、大腸の運動性が悪く、粘膜が傷きやすい状態。

これは、病気ではなく、感染症から回復する際の修復期間に多い症状です。

今回の血便については、便の最後に付着する鮮血便(いわゆる赤い血です。)になりますので、

出血点としての可能性は大腸が1番高いと考えました。

『3、慢性腸炎(IBD)』への検査に進むのではなく、『4、大腸炎』としての治療をご提案しました。

普段食べているご飯から消化しやすいご飯に変更し、大腸の修復期間を待つ治療に変更しました。

治療食:ロイヤルカナン 消化器サポート

徐々に血便の頻度が改善し、治療食開始から3ヶ月ほどで治療終了としました。

猫の慢性下痢において、血便が混じってくる際は、治療に時間がかかることが多いです。

1つ1つの可能性を除外していくことが大切になりますので、焦らず治療に取り組むよう心がけています。

皆様のお悩みに少しでも、お役に立てれば幸いです。お困りの際は、お気軽にご相談ください。

アリイ動物病院 院長