前回は小型犬に多い心疾患の、『僧帽弁閉鎖不全症』についてお話させていただきました。
今回は大型犬に多い、『拡張型心筋症』の症例をご紹介させていただきます。
動物が疲れやすいとの主訴で来院されましたので、各種精密検査を実施しました。
心臓超音波検査において、左心室の拡大および球形化、左心室収縮機能の低下が認められました。
血液検査において異常が認められず、甲状腺ホルモン値にも異常が認められなかったため、
拡張型心筋症と診断しました。
また、身体検査では徐脈傾向を認め、血圧を測定したところ高血圧が認められたため、
心臓に負荷がかかりやすい状態であることが判明しました。
犬の拡張型心筋症について
拡張型心筋症は大型犬によく見られる心筋症の一種です。
心臓には右心房・右心室・左心房・左心室の4つの部屋があり、
全身に血液を送っている一番大きな部屋が左心室です。
この左心室が拡大・変形し、収縮機能が低下してしまうのが拡張型心筋症の特徴です。
栄養性、遺伝性、自己免疫性などの原因が可能性として示唆されているものの、
現在のところ、正確な原因はわかっていません。
拡張型心筋症では全身への血液循環に問題が生じるほか、血液がうっ滞を起こすため、
心臓と繋がっている肺でもうっ血を起こします。
そのため、最初は疲れやすいといった症状から始まり、
進行すると呼吸困難などの症状が見られ、重篤化すると亡くなることもあります。
治療としては、心臓の収縮力を改善したり、負荷を減らしたりする内服薬の投与を行います。
今回の症例では、心臓の収縮力を改善させるために強心薬であるピモベンダン、
血圧を下げて心臓の負荷を減らすために血管拡張薬であるベナゼプリルを処方しました。
また、再診時に臨床症状・身体検査・心臓超音波検査の結果で、心
臓の負荷をさらに減らすために利尿薬であるフロセミドを追加処方しました。
こうした治療が功を奏し、疲れやすさが消失しました。
そして再検査の結果、心臓の収縮力に改善が認められ、徐脈傾向や高血圧にも改善が認められました。
初診日から8ヶ月以上経ちますが、症状の再燃もなく順調に経過しています。
なお、拡張型心筋症は他の心疾患同様に進行しますので、
今後も定期的に診察や検査を行うことで、随時、薬の調整を実施していく予定です。
獣医師 矢野