軟部外科シリーズ:紐状異物摘出

こんにちは、獣医師の上野です。今回は紐状異物を食べてしまった猫ちゃんの手術についてお話ししたいと思います。

患者様情報

動物種:猫

年齢:3才

体重:6kg

主訴:毛糸を食べてしまった。肛門から毛糸が出ていて下痢と嘔吐をしている。

検査:レントゲン検査

小腸(小腸は十二指腸・空腸・回腸の順で構成)内のガス貯留と空腸回腸領域に白く浮腫んだ波打つ構造が認められました。

異物を疑う場合にバリウム検査を行い、閉塞の有無・位置の確認をすることもあります。

今回はレントゲン検査結果と併せて消化器症状が認められること、肛門から毛糸が出ていること(引っ張っても抜けない)から異物による腸閉塞(イレウス)を起こしている可能性が非常に高いため、このまま開腹手術を行う承諾を飼い主様よりいただきました。

手術

常法通りに開腹します。

紐状異物ですので、胃から盲腸にかけて確認できるよう開腹します。

実際の小腸を取り出した写真です。空腸回腸が紐状異物を芯として蛇腹状に寄ってしまっています。

こうなってしまうと腸は動きを著しく制限されてしまい、内容物を運ぶことが出来なくなることのほか、異物の刺激により組織が挫滅してしまい、最悪の場合に腸穿孔を起こしてしまいます。

今回は腸穿孔は起こしていませんでしたが、紐状異物は胃から大腸かけて一本につながっていました。

手術の注意事項

紐状異物や長い異物の場合、一箇所から引っ張り出そうとすると、異物により消化管の組織を損傷し穿孔させてしまう可能性があるため、異物を要所で切断、短くしてから除去する必要があります。

そのために消化管に対し数箇所の切開を加え、異物を切断し、除去します。

今回は空腸回腸の十二指腸近くと、盲腸の近くでの二箇所の切開で紐状異物を除去出来ました。

こちらが紐状異物を除去し縫合(矢印)した後の写真です。蛇腹状態から正常な空腸回腸の状態に戻りました。

大腸に残っていたものは肛門から出ている毛糸を引き抜いて除去しました。

この後、他に異物の取り残しがないことを確認し、縫合部の裂開予防、多臓器への癒着防止のため、大網(腹腔内の脂肪の膜)を縫合部にかぶせて、閉腹しました。

術後の注意事項

異物の影響と手術の侵襲により、術後はしばらく腸の動きは弱くなります。

術後24時間の絶食絶水の後、流動食を少量から始め、徐々に量を増やしていきます。術後から1週間経ってようやく普段の食事に戻すことが出来ます。

術後の経過

嘔吐や下痢の確認、点滴治療のため、2~3日の入院が必要になります。

今回の患者様は嘔吐や下痢もなく、順調に回復し、退院後も症状はなく、今はいつもどおりに過ごしています。

大丈夫かな?と思っていても意外と悪さするのが異物です。

少しでも不安がよぎる時はお早めにご相談ください。