今回は、心臓病の症状としての『咳』について、お話しさせていただきます。
心臓病に起因する主な症状としては、運動不耐性(運動を嫌がり運動能力も低下)、咳、呼吸困難、失神などが挙げられます。
心臓病は進行すると他の臓器にも悪影響を与えますので、この場合の症状は多岐に渡ります。
呼吸で出入りする空気の通り道である気管や気管支は、物理的な刺激によって咳が起こりやすい臓器です。
心臓病は進行に伴い拡大することがあり、隣接する気管支を圧迫するようになると、咳が引き起こされます。
こうした場合の咳は、気管支拡張薬、消炎薬、鎮咳薬などで治療していきます。
ただ、咳を完全に抑え込むのが難しいことが多いです。
心臓は肺動脈や肺静脈という大きな血管で肺と繋がっています。
心臓病が進行していくと、血液を送るポンプとしての心臓機能が低下する、いわゆる心不全の状態になります。
心不全では、心臓に繋がる肺の血管の血圧が上がったり、肺に水分が溜まってしまう肺水腫という状態になったりするため、肺に負荷がかかり咳が引き起こされます。
この場合の咳は、原因が心不全ですので、強心薬、利尿薬、血管拡張薬といった、心臓の負荷を取る薬で治療していきます。
心臓病による咳の治療は、上記のように原因によって使う薬が変わるうえ、①と②の原因が組み合わさって起こることもあります。
さらに、咳自体は心臓病とは違う病気からも発症することがあります。
こうしたことから、状況に応じて心臓の検査を行い、原因を見極めていく必要があります。
では、実際に診察を行った『心臓病からの咳を認めた症例』についてご紹介させていただきます。
咳を主訴に来院され、元気や食欲、呼吸状態などに問題はないものの、安静時にも咳が出ているとのことでした。
身体検査で心雑音が聴取され、心臓病による咳が疑われたため、咳の原因を探索するために心臓の検査を実施しました。
ただ、ご家族以外の人と接するのが苦手な子でしたので、検査は短時間の保定で済む胸部レントゲン検査のみ実施しました。


身体検査、胸部レントゲン検査、犬種や年齢などを総合して、僧帽弁閉鎖不全症による肺のうっ血(軽度の肺水腫)と、それに伴う咳と診断しました。
薬を飲ませるのが大変とのご相談もいただきましたので、その点も踏まえて、強心薬であるピモベンダン、利尿薬であるフロセミドを処方しました。
1週間後の再診時には、咳はほぼ良化していました。
心臓病の長期管理に向けて、利尿薬をフロセミドからトラセミドに変更して、ピモベンダンとトラセミドを処方しました。
その後も咳は落ち着いたまま、治療を継続しています。
今回の症例では、咳の主な原因は心不全でしたので、心臓病の進行に伴い再発する可能性があります。
現状では再発の兆候もなく順調に経過していますが、今後も注視していきたいと考えています。
獣医師 矢野