軟部外科シリーズ:眼瞼皮膚腫瘍

こんにちは、獣医師の上野です。今回は、眼瞼(まぶた)にできる腫瘍についてご報告いたします。

患者様情報

動物種:犬

年齢:8歳

体重:48kg

主訴:左下まぶたにしこりができている。

以前にも同じ症状があり、そこは他院にて切除済とのことでした。

眼瞼皮膚腫瘍

犬では眼瞼皮膚にできる腫瘍の約8割は良性腫瘍と言われています。

良性:マイボーム腺腫、皮脂腺腫、組織球腫など

悪性:メラノーマ、肥満細胞種など

猫では逆に8割は悪性腫瘍と報告されています。犬に比べて発生自体少ない印象で、私自身は猫での眼瞼皮膚腫瘍はあまり出会ったことがありませんが、扁平上皮癌、リンパ腫、メラノーマの順で発生が認められています。

眼瞼皮膚腫瘍はその拡大により物理的に角膜への刺激・損傷を招きます。

また、腫瘍表面の自壊が発生する場合もあり、炎症を起こすこともあります。

良性である場合に症状がなければ経過を見守る場合もありますが、

悪性である場合、その成長速度は速く、浸潤・転移も警戒しなくてはなりません。

検査、治療

診断方法は針生検による細胞診検査ですが、

・眼球に近い非常にデリケートな場所であること

・治療方法が手術であること

・拡大によって手術難易度が上がること

以上のことより早い段階で手術を行い、病理組織検査によって診断をするという『診断と治療』を同時に行うことをおすすめしています。

今回の患者様は腫瘍が眼球に触れるまで拡大しており、以前も眼瞼皮膚腫瘍が発生したことがあった(良性腫瘍)経緯もあるので、飼い主様のご希望もあり早期に手術を行いました。

手術

腫瘍の発生部位(根)を取り残さないように皮膚をV字切開やホームベース形に切開し、腫瘍を切除します。

腫瘍の大きさによっては同様の術式で行なってしまうと術後に左右の目で大きさに差が出来てしまったり、眼瞼の開閉に支障が出てしまうことがあります。

その際は皮弁形成術により不足している皮膚を補ったり、眼瞼形成術を併用することもあります。

今回はホームベース形に皮膚切開・切除を行いました。

手術の注意事項

縫合は縫合糸が眼球側に露出しないように皮内・皮膚の縫合を行います。

皮膚縫合を行う際には眼瞼の縁がずれないように切除縁を縫合します。

術後の写真です。

術後の注意事項

手足で術部をひっかかないようエリザベスカラーの装着は必須です。

腫瘍が悪性の挙動をしている場合は再発の有無、術部の離開を警戒し、細かに経過を観察します。

術後の経過

術後は点眼薬もしくは経口薬の抗菌薬と抗炎症薬でケアをしていきます。

通常の手術と同様に10~14日で抜糸を行いますが、眼球の近くですので、吸収糸で縫合して抜糸が必要ないように行うこともあります。今回は吸収糸で縫合しました。

飼い主様との相談の上、病理組織検査は出さずに経過を見ていますが、経過は良好で再発や離開もなく、悪性腫瘍の挙動は認められません。

眼瞼の腫瘍は皮膚以外にも結膜(粘膜)に発生することもあり、外側からだと分かりにくいケースもあります。

涙や目やになど何か変だな、と感じた際にはお気軽にご相談ください。