循環器シリーズ5:心腎連関について

今回は心臓病と腎臓病の繋がりについて、お話しさせていただきます。

心腎連関について

全身に血液を送り出す臓器である心臓と、尿を作り出す臓器である腎臓とは、

一見すると関連が低いように感じられると思います。

しかし、以前から、心臓病と腎臓病が頻繁に合併し、互いに悪影響を及ぼしあうことが知られていました。

そして研究が進んできたことで、心臓と腎臓が密接に関連していることが判明し、

両者が互いに影響しあっていることを『心腎連関』と表現するようになりました。

心腎連関はなぜ起こるのでしょうか。

腎臓は、心臓から送られてきた血液から尿を作り出しますので、豊富な血液が必要な臓器です。

また、腎臓は尿量を調整することで全身を流れる循環血液量を調整し、心臓の機能にも影響します。

こうした点から、心臓病や腎臓病のいずれかで血液循環が変化すると、もう一方にも影響が出てきます。

さらに、心機能低下や腎機能低下は、血液循環の調整を担う神経体液性因子と呼ばれる、

レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系や交感神経系の活性化、酸化ストレス(活性酸素の増加)、

高血圧などを引き起こし、これらがさらに心機能低下や腎機能低下を悪化させてしまうのです。

心腎連関を踏まえて、各々の治療を実施することが大切になります。

以前は心臓と腎臓とを別々に考えた治療が行われていましたが、

現在では心腎連関が起こることを前提とした治療が重要といわれています。

また、心臓あるいは腎臓の病気を抱えている動物は高齢のことが多いので、

必然的に両方の病気を抱えているか、病気ではなくとも機能が低下してきていることが多いです。

こうした点からも、心臓病の診察の際には腎臓に問題がないか、腎臓病の診察の際には心臓に問題がないかを

確認していき、必要に応じて、随時、追加の治療をしていく必要があります。

次に、心臓病を治療していた際に腎臓機能低下を併発し、

心腎連関に基づいた治療を行った症例をご紹介させていただきます。

患者様の情報:犬、トイプードル、12歳、女の子

元気食欲の低下と呼吸の異常を主訴に来院されました。

身体検査では、全身状態は良好なものの、深く大きい呼吸が認められ、

心音が小さく聴取しづらくなっていました。

各種検査結果

僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁異形成による三尖弁閉鎖不全症が認められ、

これらに起因すると考えられる胸腹水貯留も認められました。

レントゲン検査:胸水貯留を疑う

超音波検査:胸水貯留と三尖弁異形成を疑う

三尖弁異形成について:弁膜症の一種であり、三尖弁の形態に異常をきたす先天性の病気

心臓の右心房と右心室の間には三尖弁という弁があり、血液が逆流しないように開いたり閉じたりしています。

この三尖弁の形態に異常が起こり、きちんと開かなくなったり閉じなくなったりするのが三尖弁異形成です。

三尖弁がきちんと閉じなくなると三尖弁閉鎖不全症となり、心臓や全身の血液循環に悪影響が出てきます。

軽症であれば、症状は認められません。

今回のように無症状で少しずつ進行していき、

他の心臓病と合併することで問題を起こし発見されることもあります。

重症の場合は、呼吸困難、むくみ、胸腹水などの症状が認められます。

治療方法について(心腎連関をふまえて)

心臓の負荷を軽減する内服薬での治療が中心になります。

胸水貯留が重度の場合は、呼吸困難を引き起こしますので、胸に針を刺して胸水を抜去する処置(胸腔穿刺)を行います。

心腎連関の状況について

心臓での異常を認めましたが、腎臓の状況については、以下の通りでした。

血液検査(腎臓項目のみ抜粋)結果①

尿素窒素:38.9 mg/dL(正常値:9.2~29.2 mg/dL)

クレアチニン:0.49 mg/dL(正常値:0.4~1.4 mg/dL)

腎臓にやや負荷がかかっている状態が分かり、心腎連関が認められました。

本症例の治療について:胸水抜去、内服薬

胸水貯留が重度だったため、まず胸腔穿刺により胸水抜去を行いました。

そして心不全からの元気食欲低下および胸腹水貯留を疑ったため、

利尿薬であるフロセミド』と、『強心薬であるピモベンダン』を処方しました。

再診でご来院された際には、元気食欲は改善し、呼吸も元通りになったとのことでした。

レントゲン検査と超音波検査でも胸腹水は明らかに減少していました。

治療後の血液検査結果②

尿素窒素:46.9 mg/dL(正常値:9.2~29.2 mg/dL)

クレアチニン:1.44 mg/dL(正常値:0.4~1.4 mg/dL)

治療前より腎臓の負荷が増大していました。

心腎連関を考慮し、治療方法の変更を実施しました。

初診時は胸水貯留が重度だったため、まずは心不全に重点を置いた治療を始めました。

しかし、心腎連関による腎臓負荷の増大が疑われたことと、胸水貯留が改善したことから、

腎臓の負荷も軽減させる治療へ調整を行いました。

①利尿薬のフロセミドは腎臓の負荷を軽減しつつ利尿効果のある、

抗アルドステロン薬のスピロノラクトンに変更』しました。

②血圧を低下させ心臓と腎臓の負荷を軽減するために、

血管拡張薬であるアラセプリルを追加』しました。

③『強心薬のピモベンダン』には腎臓の血流を改善する効果もあるため、継続処方しました。

次の再診でご来院された際、元気食欲や呼吸状態は変わらず良好、胸腹水の量も少量のまま安定していました。

調整後の血液検査結果③

尿素窒素:25.6 mg/dL(正常値:9.2~29.2 mg/dL)

クレアチニン:0.43 mg/dL(正常値:0.4~1.4 mg/dL)

いずれも数値が下がって腎臓の負荷が解消されたことが確認できました。

良好な経過でしたので、『内服薬はスピロノラクトン、アラセプリル、ピモベンダンを継続処方』としました。

心臓病とそれに伴う腎臓負荷は、今後進行していく可能性がありますので、

引き続き状態を確認しながら、診察を続けていく予定です。

獣医師 矢野